『彼女。: 百合小説アンソロジー』
相沢 沙呼 (著), 青崎 有吾 (著), 乾 くるみ (著), 織守 きょうや (著), 斜線堂 有紀 (著), 武田 綾乃 (著), 円居 挽 (著)
“百合”って、なんだろう。
彼女と私、至極の関係性。“観測者"は、あなた。
珠玉の7編とそれを彩る7つのイラスト。
究極のコラボレーションが実現!青崎有吾「恋澤姉妹」/扉絵 伊藤階
乾くるみ「九百十七円は高すぎる」/扉絵 郷本
織守きょうや「椿と悠」/扉絵 原百合子
斜線堂有紀「百合である値打ちもない」/扉絵 たいぼく
武田綾乃「馬鹿者の恋」/扉絵 けーしん
カバーイラスト/100年
ライトな百合から激重な百合まで、たくさんの百合が楽しめました。
百合は女性同士の恋愛のことです。
BLに比べると、百合の認知度はまだ低く、そのままの意味で捉えらることも多いです。
かくいう私も、かなり百合を嗜んでおります笑
やはり、殆どの百合作品は漫画やライトノベルです。
なので、本書が出てきたときには衝撃でした。
まずは、著者。
著者を見ただけで、即購入を決めました。
内容もまたそれぞれが素晴らしい。
「恋澤姉妹」は少しトガッた作風で、うまく表現できないのですが、
何とも言えない気持ち悪さ、みたいなものを感じました。
個人的には、夢野久作が好きな方には会うのではないかと思いました。
「微笑の対価」、「上手くなるまで待って」、「九百十七円は高すぎる」は、
ミステリ要素があって本を読む手が止まりませんでした。
「微笑の対価」は、伏線回収が上手いなと感じました。
こういう百合ももちろん好きなのですが、いわゆるヘテロ要素が強めです。
「上手くなるまで待って」は、創作の意味や作家を目指した登場人物の気持ちが
伝わってきて、百合抜きにしても、文学として面白いと感じました。
「九百十七円は高すぎる」は、
日常系のゆるい百合と見せかけて、割とハードな百合描写もあり大満足。
しかも、ミステリ要素が多く紙面の多くを推理が占めています。
「椿と悠」は、ある意味、一番ラノベや漫画に親しみがある
王道百合と言えるかしれません。
男の子を巡った三角関係かと思わせておいての王道百合。
男の子はいい当て馬でした。
漫画の百合に慣れている私としては、この作品を読んで、
「これだよ、これ。やっぱり百合はこうじゃなきゃ!」
みたいな感じで、百合欲が満たされました。
「馬鹿者の恋」、これも最高でした。
幼馴染的な関係の二人に入ってきた第三の女。
この子の介入で関係性が大きく揺れ動きます。
最後がバットエンドなのが文学らしいと感じました。
最後は、「百合である値打ちもない」。
この作品が最も印象に残っています。
ルッキズム、カミングアウトの難しさなど、
現代ならではの苦労や難題が見える作品です。
主人公らがネットゲーム配信者→プロゲーマーという設定が、現代らしいですよね。
”自分は彼女のように美しくない”、”彼女に釣り合わない”、
”私は容姿が優れていないから百合である値打ちもない”
そんな風に思ってしまう女の子の描写が妙にリアルで、話に引き込まれました。
百合って表現自体が、基本的に二次元のキャラクターやアイドルに
向けたものですよね。
実際はLGBTとよばれていて、漫画やアニメのジャンルとは似て非なるもの、
その境界線みたいなものが大切なのではないかと思います。
どの作品もアニメや漫画とは異なる、文学的な描写や表現が素晴らしかったです。
百合小説というと、「そういう趣味はない」という人もいますが、
文学として非常に面白いので、ぜひおすすめしたい一冊です。